2年くらい前からかな、ケイが仕事を始めたんだ。
あれだけ働こうとしなかったのに不思議。まあ毎日「働きたくない」って言ってるけど
働いてる姿なんか面白いから、あんたにも見せてやりたいよ。
僕らはずっと家族でいられると思っていた。
あんたが「僕らを食うことができる」ことは知っていた。
だけど、あんたの血と肉になれるなら、あんたがこれからも笑顔で生きていけるなら
僕はいっそ食われてしまってもいいと思っていた。
本能で助け合うことができるものが 家族 だと信じて疑わなかった
初めて出会ったとき、白を過ぎてもう青い顔をしたあんたをなぜか僕は助けた。
今でも理由はわからないけど、後悔はしてない。
誰かを助けることも、誰かに感謝されることも初めてだった。
生まれて初めて誰かと一緒にいることが嬉しく思えた。
優しくて臆病なあんたは、僕が吐く毒を全部飲み込んで消してしまう。
苦笑いで「そのとおりですね、僕は駄目なやつなんです」なんて言ってくる。
僕はまだ幼くて、素直になれない。
思い出すとまた悔しくなってくる、今日はこのあたりでやめておこう。
今年もまた春が来た。
あいつはまだ帰ってこない。
悲しいことにこの生活にも少しずつ慣れてきた。
自分を落ち着かせるためにもちょっとずつ、何があったかを書いていこうと思う。
小さい頃、群れに馴染めなかった
当たり前だと思う。僕だってこんな毒ばっかり吐くやつ嫌いだもん。
あんたにも嫌われると思ってたのに。
「家族になろう」なんて言われたとき、本当はすごく嬉しくてどうしたらいいかわからなかった。僕なんかが一緒にいていいのかわからなかった。
でも口をついて出るのはやっぱりキツイ言葉ばっかりで、それでも笑ってるあんたは本当に頭がおかしい。そんなあんたと一緒にいられて嬉しい僕もおかしい。
おかしいよね。
実は最近、もうあんたはとっくのとうに死んでしまってるんじゃないかって思う。
無理やりにでもあんたについていけばよかった。
あんたきっと一人じゃろくな死に方しないもん。
生きてるなら、ちゃんとしたものを食べられているのか、夜は眠れているのか、
僕らのことを忘れられているか。
ちゃんと幸せか。
わかってた。
あんたは僕らを食べない。家族を傷つけない。
あんたが一番家族を大事にしてたのに。
あの日、なんであんたは否定しなかったんだろう。
あんたが「この子達を僕が食べることはありません」とさえ言えば、
僕らは今もずっと家族でいられたんじゃないのかな。
ああ、あんたにそんなこと言える度胸なかったっけ。
ねえ、どうなの。
種類なんて知らない。どうでもいい。
あんたが猫だろうが犬だろうが人だろうが、なんだって僕はあんたが好きだった。
誰かに否定されただけでバラバラにしてしまうんだったら、
なんで「家族になろう」なんて言ったの